第八話 彼は小鳥と話す


 やあ、今日も来たね。みんな、やって来たね。昨日はどこまで話したっけ。そうだった、モーセが海を開いたところだったね。うん、うん、待っていて。そんなに急かすんじゃないよ。



 でも、よければ、今日は君たちの話を聞かせてほしいんだ。みんなが、僕の話をどうしてそんなに聞いてくれるのか、僕に教えてほしいんだ。だって、僕は君たちにパンを与えるわけでもない。もちろん、葡萄酒だって与えられない。それなのに、どうしてみんなは、僕の話を聞いてくれるんだい?



 ああ、ああ、みんな一斉にしゃべらないで。みんなが僕のことを好いてくれてるってことは、よくわかったよ。ありがとうね。みんな、僕が話すことが好きなんだね。僕と話すことが好きなんだね。



 僕からは、たくさんのことを教わっているって? そうかなあ、僕こそ、みんなからたくさんのことを教わっているよ。季節の移り変わりとか、おひさまが早く沈むようになり始めるのはいつかとか、君たちから僕は学んでいるよ。



 そして、君たちはいつも朗らかで、陽気だね。その声を聞くだけで、僕の心も朗らかになっていくよ。君たちのように、いつも朗らかに、陽気に生きていくことが出来たら、人はどんなにか幸せだろうね。



 子供の頃から、君たちと話すのが、とても好きだよ。いつも、僕の話を聞いてくれてありがとうね。君たちに、どうぞ祝福を。さあ、この広い空に飛び立っていくんだよ。







(リスト作曲:《伝説》第1曲「小鳥に説教するアッシジの聖フランチェスコ」)







幻想音楽奇譚

名曲の調べと共にお届けする、不思議な物語。

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